iDeCoと積立NISAどちらを選ぶべき?

iDeCo,積立NISA
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iDeCoと積立NISA、どちらを選ぶべきか

「iDeCoと積立NISA、どちらを選んだらいいですか?」という質問を受けることがある。

シンプルに考えれば、

・老後資金のためならiDeCo

・子供の教育資金など途中引き出しもあり得るなら積立NISA

となるが、退職一時金の額や自分に適用される”退職所得控除額“も考慮できると税制上どちらが自分にとって有利かも理解したしたうえでより良い選択ができる。

退職所得控除は、退職金を受け取る時点でのその会社での勤続年数またはiDeCoの加入年数のいずれか長い方が基準になる。つまり、転職などが当たり前な現代、iDeCoは転職しても引き継がれるため、できるだけ早めに初めて置く方が将来の税金上も有利になるということを認識しておく必要がある。

▼退職所得控除の金額

退職金を受け取る時の勤務先の勤続年数またはiDeCo加入年数 20年以下 20年超
退職所得控除の額 40万円/年 70万円/年

税制メリットを考慮した一つの結論としては、概ね自分に適用される退職所得控除の範囲内で「退職一時金+iDeCo」を利用し、それを超える分は積立NISAを利用するとよい、ということになる。

iDeCoのおさらい

iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、老後資金のために毎月一定額(企業年金のない会社員なら月2.3万円限度)を積立、投資信託等で運用し、60歳以降に引き出せるようになる仕組み

60歳まで引き出せないという制約の代わりに、以下3つの税制メリットがある。

1.掛金は全額所得控除となる

2.益金は非課税

3.一時金での受取時は退職所得控除の対象となる

それぞれカンタンに解説する。

 

1.掛金は全額所得控除となる

たとえば、会社員で年収500万円の人が月2万円(年間24万円)のiDeCoを利用すると、24万円×(所得税10%+住民税10%)=4.8万円の節税となる。年間24万円の投資に対して4.8万円の節税は結構大きいと思う。

2.益金は非課税

株や一般の投資信託等の場合、利益が出たら利益分×20%が税金で差し引かれる。たとえば、30年かけて500万円を投資して、1000万円になったとする。500万円の儲けに対して20%の課税になるので、100万円が税金で差し引かれてしまうが、iDeCoの場合は利益が出ても課税されないというメリットがある。

3.一時金での受取時は退職所得控除の対象となる

iDeCoは受け取る時に納めるべき税金が計算される。その際、”退職所得控除”の対象になるため、他の所得と比べて税金がだいぶ少なくなるという仕組み。

 

退職所得=(退職一時金+iDeCo一時受取額-”退職所得控除額”)×1/2

 

▼退職所得控除の金額

退職金を受け取る時の勤務先の勤続年数またはiDeCo加入年数 20年以下 20年超
退職所得控除の額 40万円/年 70万円/年

20年目までは年間40万円ずつ積み上がる退職所得控除だが、21年目以降は年間”70万円”ずつ積み上がるので、長く勤めれば勤めるほど、またはiDeCoの加入期間が長い程、所得から控除される額が多くなることが分かる。

一つの会社に勤め続けることがあたりまえではない時代、退職所得控除の額を稼ぐためにも、社会人になったらすぐにでも少額でもいいのでiDeCoは開始した方が良い

たとえば、退職時の会社に30年勤めた人がiDeCoで1500万円を受け取ると以下のような計算になる。(退職一時金はないものとして)

iDeCo一時受取1500万円-(20年×40万円+70万円×10年)×1/2=”0円”!

つまり、(他に所得がない場合)1500万円を受け取っても税金はかからないというわけ。これは大きい。

iDeCoとは課税の先送りである

上記のようにiDeCoは掛金の全額控除、益金非課税、退職所得控除による優遇という3つの大きな利点があるが、言い換えれば、「給与課税の先送り」とも解釈できる。

少子高齢化によりひっ迫が予想される日本人の老後資金準備のため、老後への貯蓄を促す仕組みである。今もらう給与をもらわないことで、当然その分に対する所得税・住民税はかからず(全額所得控除)、退職時に退職金と同じ扱いで受け取れるという見方をすると分かりやすいかもしれない。

積立NISAのおさらい

一般NISA 積立NISA
投資上限 年120万円 年40万円
非課税期間 5年間 20年間※
備考 2023年口座開設分まで ※恒久化の見込みあり

投資は短期的にはプラスマイナスがあるが、過去30年ほどのデータを見るとコツコツ10年以上積立投資を行えば、期間の分散効果により、いつ投資を始めてもプラスになってきたという実績がある。

一般NISAはそもそも2023年までの口座開設分で終了となる見込みであるし、非課税期間が5年と短いので短期的に儲けようという場合には良いのかもしれないが、長期的にライフプランに生かす投資だとすれば積立NISAの方が適しているといえる。

積立NISAの利点はiDeCoと同様に、益金に対して非課税であるということ。

また、iDeCoは60歳になるまで引き出すことができないが、積立NISAは任意のタイミングで現金化することができる。したがって、数年とか十数年積み立てて、子供の学費がかかる時期に現金化する、という使い方ができる点でiDeCoに比べてフレキシブルといえる。

ただし、積立NISAには、所得控除の仕組みはないので、その点はiDeCoに軍配があがる。

退職所得控除の額や退職金も考慮してiDeCoが積立NISAかを選ぶとよい

60歳まで引き出せない制約を除けば、iDeCoの方が税制メリットに優れているように思えるが、退職所得控除の額や退職金によって積立NISAの方が良い場合もある。

(例)
・年収500万円、iDeCoに年24万円×30年=合計720万円を投資、受取時1500万円となっているケース。
・年24万円の掛金×所得・住民税合計20%=年4.8万円の節税 30年で144万円の節税
・退職時の会社の勤続年数30年(またはiDeCo加入期間30年)
・退職所得控除額=(20年×40万円+10年×70万円)=1500万円
・退職一時金2000万円 + iDeCo一時金1500万円 = 合計受取額3500万円

▼税金の計算
(受取額3500万円-退職所得控除1500万円)×1/2=1000万円(課税所得)
[所得税]1000万円×税率33%-64万円≒266万円
[住民税]1000万円×税率10%≒100万円
→所得・住民税合計366万円

30年で144万円の節税ができていたが、退職時に366万円の課税がされることになる。

一方、この人がiDeCoでなく積立NISAを選択していた場合30年でiDeCoにはあった節税144万円は得られない。

その代わり、退職時に積立NISAで1500万円を受け取っても課税はされない。

 

(退職金2000万円-退職所得控除1500万円)×1/2=250万円(課税所得)
[所得税]250万円×10%-10万円≒15万円
[住民税]250万円×10%=25万円
所得・住民税合計40万円

年24万円積立×30年の課税額

積立時 受取時 合計
iDeCo 0 366万円 366万円
積立NISA 144万円 40万円 184万円

このようなケースであれば、途中引き出しもできる積立NISAを選んだ方が得策といえる。

上記では他に所得がない前提でシンプルに考えているが、通常は他に同じ年に給与所得等があるケースが多い。他に所得があれば所得税率が上がることがあるので、さらに積立NISAの方が税制上有利になり得る。

以上を踏まえ、税制メリットを優先する場合のひとつの結論としては、退職一時金+iDeCo一時受取額の合計が、概ね退職所得控除の範囲に収まるようにiDeCoを利用し、それを超える分については積立NISAを利用すると良いだろう。

iDeCoを積極的に利用した方が良い人の例

・退職金がないか少ない→退職所得控除の枠が使える

・iDeCoを早く始めている→退職金控除額が多い

 

積立NISAを積極的に利用した方が良い人の例

・しっかりした退職一時金が見込める(退職所得控除の枠を使い切ってしまうのでiDeCoのメリットが薄い)

・途中で引き出す可能性が高い(子供の教育資金など)

 

退職所得控除の額

勤続年数またはiDeCo加入期間 退職所得控除の額
5年 200万円
10年 400万円
15年 600万円
20年 800万円
25年 1150万円
30年 1500万円
35年 1850万円
40年 2200万円

iDeCoには積立中の掛金の全額控除の税制メリットもあるし、場合によってはiDeCoは分割受け取りもできるので、あまり厳密に考えすぎる必要はないが、概ね自分に適用される退職所得控除の額の範囲で「退職一時金+iDeCoの一時受取額」となるようにiDeCoの掛金を検討できると良い。

普通預金等 vs iDeCo vs 積立NISA

イメージをつかむためにざっくりと比較。

<前提条件>退職一時金がないケース

30歳~60歳までの30年間積立、年収500万円(課税所得230万円程)で一定、所得税率10%、住民税率10%、iDeCoの管理コスト約200円/月、iDeCoおよび積立NISAの信託報酬0.2%/年、退職所得控除1500万円として

普通預金等 iDeCo 積立NISA
年利回り 0% 5% 5%
積立額 年24万円 年24万円 年24万円
+積立中の節税額① 0円 年4.8万円×30年=144万円 0円
-管理コスト② 0円 7万円 0円
+リターン③ 720万円 1615万円 1615万円
-受取時の税金④ 0円 17万円 0円
Total①+③-②-④ 720万円 1735万円 1615万円

Totalでは上記のようにiDeCoに軍配が上がる。

 

<前提条件>退職一時金が2000万円あるケース

30歳~60歳までに30年間積立、年収500万円(課税所得230万円程)で一定、所得税率10%、住民税率10%、iDeCoの管理コスト約200円/月、iDeCoおよび積立NISAの信託報酬0.2%/年、退職所得控除1500万円として

普通預金等 iDeCo 積立NISA
年利回り 0% 5% 5%
積立額 年24万円 年24万円 年24万円
+積立中の節税額① 0円 年4.8万円×30年=144万円 0円
-管理コスト② 0円 7万円 0円
+リターン③ 720万円 1615万円 1615万円
-受取時の税金④ 0円 778万円 0円
Total①+③-②-④ 720万円 974万円 1615万円

退職一時金が2000万円などしっかりもらえる場合、「退職一時金+iDeCo一時受取額」が退職所得控除を大きく上回ってしまうので、iDeCoの場合、課税所得が大きくなり、その分、適用される税率も高くなってしまい、結果として778万円という多大な課税がされてしまうことになる。

したがって、退職所得控除も考慮し、iDeCoと積立NISAの掛金のバランスを考えることが大変重要だということが分かると思う。

ただし、この場合778万円もの税金を払うのはバカバカしいと60歳のときに気づくことができれば、実際は2000万円の退職金だけ受取り、iDeCoは翌年以降収入が少なくなるタイミングで分割して受け取るのが賢明といえる。

▼公的年金等控除(iDeCo年金受取+公的年金以外の所得が1000万円以下の場合)

年間受取額 公的年金等控除
65歳未満 130万円超410万円以下 25%+27.5万円
65歳以上 330万円以下 110万円

たとえば上記の例のように60歳時点で1615万円になっているiDeCoを掛金をストップして、65歳から10年間に渡って年金として受け取るとする。他に公的年金が年間150万円あるとして、ざっくり、iDeCo160万円+公的年金150万円=310万円/年とする。

310万円-公的年金等控除110万円=課税所得200万円
[所得税]200万円×10%-10万円=10万円
[住民税]200万円×10%=20万円
所得・住民税合計30万円
 →30万円×10年間=300万円(10年間の所得・住民税)

上記のケースでiDeCoを一時金で受け取らず、65歳からの10年分割にすることで所得・住民税が778万円ではなく、300万円に軽減させることができるということになる。しかもこれは公的年金の分も含めて計算しているので、実質的にiDeCoにかかる税金はもっと小さい。

退職一時金+iDeCoの額が、退職所得控除の枠を大きく超えてしまう場合は、iDeCoを分割受取りにすると税金がだいぶ抑えられることがあることが分かる。ただ、それでもこの場合は積立NISAの方がTotalで有利であり、積立NISAであれば、積立を「やめる・続ける・現金化する」の自由度が高いので、やはり、退職金+iDeCoにすると退職所得控除の枠を大きく超えることが予想される場合には、その分を積立NISAにしておく方がベターと言えそう。

まとめ

1.自分に適用される退職所得控除の額を把握しておこう

2.退職一時金+iDeCoの額が概ね退職所得控除の枠に収まるようにしよう

3.退職所得控除の枠を超える分は積立NISAを利用しよう

▼退職所得控除の額

勤続年数またはiDeCo加入期間 退職所得控除の額
5年 200万円
10年 400万円
15年 600万円
20年 800万円
25年 1150万円
30年 1500万円
35年 1850万円
40年 2200万円

▼積立投資の目安(想定利回り5%/年、信託報酬0.2%にて計算)

投資間 年間
投資額
累計
投資額
投資結果
25歳→60歳

の35年間

年12万円 420万円 1090万円
年24万円 840万円 2180万円
年36万円 1260万円 3270万円
年48万円 1680万円 4360万円
年60万円 2100万円 5450万円
35歳→60歳

の25年間

年12万円 300万円 584万円
年24万円 600万円 1168万円
年36万円 900万円 1752万円
年48万円 1200万円 2336万円
年60万円 1500万円 2920万円
45歳→60歳

の15年間

年12万円 180万円 267万円
年24万円 360万円 535万円
年36万円 540万円 802万円
年48万円 720万円 1069万円
年60万円 900万円 1337万円

積立投資は若い時期から始めると複利の効果により、累積投資額に対して大きく結果が変わる。積立NISAは投資可能期間の恒久化や非課税枠の拡大も検討されているし、世帯のライフプランに生かすなら夫婦合わせて考えてもいい。

iDeCoと積立NISAを併用して非課税制度を有効に活用し、希望する目標額から逆算して積立額を検討するとよいだろう。

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