生命保険募集行為はAI化しやすくインパクト大!
現状、生命保険募集人は120万人いると言われる。内訳は、生保会社所属の営業職員が24万人、保険代理店所属の募集人が94万人である。(生命保険協会「生命保険の動向2024」より)
生命保険の市場規模は年間40兆円と巨大。ちなみに業界ごとの市場規模としては卸売業が130兆円くらいでトップ。自動車業界は60兆円。損保業界は10兆円。IT業界は17兆円。広告業界は8兆円。生命保険の市場規模40兆円は結構大きいことが分かる。

さらに、生命保険は無形物であるため他業界に比べてAI化しやすい。物流がなく工程もシンプル。情報のやりとりだけだからほとんどIT業と言ってもいい。ペーパレス契約ができる保険会社も増えてきている。保険証券や約款ですらオンライン確認で郵送なし。生命保険募集人が行う契約、相談、保険金請求対応は20年後くらいにはすべてAIが行っている未来が来ると考えるのが自然ではないだろうか?
AI化で解消できる生命保険募集における現状の課題
1.説明誤りや違反行為
生命保険募集においては、意図した詐欺行為から意図しない説明誤りまで、いまだに不適切な行為がなくならない。これは人力に頼っていることに起因する。顧客を騙し保険料を搾取する事件さえいまだに起きる。意図せずとも説明不足、説明誤りは日常茶飯事。顧客の事情よりも保険会社から受け取る手数料の高さを優先した提案をするなど募集人のモラルに依存している。歩合の割合が高く人格が捻じ曲がりやすい。特に高収入を謳って募集人を採用する保険屋からは保険に加入しない方がいいと思う。
2.募集人による対応品質のバラつき
経験年数や個人のスキル、対応スタイルによって提案されるプランがまちまち。また、説明の上手い人・下手な人がいるし、顧客の意向を上手く汲み取れるかどうかも募集人の姿勢やスキルによる。提案までの時間が異常に長くかかってしまう人もいれば短い時間で的確な提案ができる人もいて、募集人による対応品質に大きなバラつきがある。本当の意味で顧客の状況や意向に沿って最適な保険会社・最適な保険プランを比較提案できる人は少ない。
さらに、生命保険募集人は離職率8割とも言われる。感覚的には10人入れば3年で8人辞めているというのは妥当な線。募集人の離職によって担当がコロコロ変わり対応品質が安定しない。
3.人件費
生命保険募集人の離職率が高いために常に新規採用を行う必要があり採用コストがかさむ。そしてイチから教育しなければならないために教育コストもかさむし、定着している人でも募集資格の取得・維持やコンプライアンス関連の教育コストが継続的にかかる。
上記のような課題はAI化により解消される。
AIなら顧客の意向やライフプランに応じて、最適と思われる保険会社・保険商品をバラつきのない一定の品質で提案可能。さらに24時間365日オンラインで相談、契約ができる。
保険屋にはじめに相談しようか検討するとき、加入しなかったら悪いんじゃないか、担当がいい人かどうか分からない、提案レベルが低かったらどうしようなどの躊躇心が働くが、AIならそんな気遣いは不要で相談ハードルが下がる。
同じような家族構成・収入・資産状況でも、たとえば、近々住宅購入を控えているので今、貯蓄系の保険を始めるのは適さないとか、別途NISA等の投資があるので老後資金準備は足りているとか、医療保険は貯蓄でまかなう考えとか、死亡時に遺したい保険金の額など、顧客の意向やライフプランによって適切な保険プランは異なる。
適切な保障を保険会社横断的に比較し短い時間・一定の品質で提案できる可能性がAIにはある。
契約後もAIによるメンテナンスやライフプラン相談ができる
保険契約時のみならず、契約後も家族構成の変化やライフプラン、ライフスタイル、考え方の変化に応じて適切な保険見直しが相談できる。世帯収入や収入見込み、資産状況、今後のライフイベント、投資状況等を総合的にライフプラン表に反映して、リスクシナリオ(保険)や投資戦略についていつでもアドバイスがもらえる。
働き方やライフスタイルの多様化、高齢化社会における自助努力をサポートする意味で強い味方になる可能性がある。
AIによる生命保険募集企業
生命保険募集において、提案能力の高い人間よりもAIの方が優れているという状況になれば、生命保険募集人120万人が不要となり、生命保険募集に特化したAIを開発した企業の一人勝ちとなる。さらにAIは進化を続け、生命保険募集における人による対応の必要性はどんどん薄れていく。
生命保険市場40兆円のうち、新規契約の割合は7%程と言われる。人間の代わりにAIが生命保険募集を開始し、それがスタンダードになれば40兆円×7%=初年度から2~3兆円の取扱保険料になる可能性がある。保険会社から得られる初年度手数料が2~3割とすれば4000億円~の売上(手数料収入)となる。
生命保険契約は解約しない限り自動的に継続されるため、さらに毎年取扱保険料が上乗せされていき、生命保険の継続率や新規契約率を勘案すると10年で半分くらい、20年で生命保険市場の大半を抑えられる可能性がある。
仮に取扱保険料が30兆円、新規・継続の手数料率の平均が10%程だとして、年間手数料(売上)は3兆円ほどのAI生保募集企業に育つ。しかも原価がないので、かかるのはほぼ人件費のみ。生保募集というシンプルなIT開発であるため従業員は1000人程でもいいかもしれない。一人当たり人件費が1000万円×1000人=100億円と売上に占める割合は0.3%ほど。売上=粗利≒営業利益=税引前純利益=3兆円という企業体ができてもおかしくない。
生命保険会社の商品開発競争加速=保険商品の魅力度UP
生命保険募集人が不要化されてAIによる高度な比較提案が実現すると、メーカーとしての保険会社は商品開発を加速せざるを得なくなる。単純比較されるだけの保険なら保険料の安い方に顧客は流れる。顧客の意向やニーズを細分化して「こういった場合なら当社の商品が最も競争優位性が高い」という強いポジショニングを余儀なくされ、より顧客ニーズに合ったリーズナブルな保険が誕生しやすくなる。開発競争に勝てなかった保険会社はいくつか淘汰されるかもしれない。
顧客のモラルリスク
人間を介さずAIとの会話で保険相談、保険契約ができるとすれば顧客側のモラルリスクも考慮しなければならない。本当は病気なのに虚偽の告知を行い、保険金の不正請求が行われるリスクがある。
人間であれば対面でその人の顔色、体調など見た目や会話により不正加入を防げるかもしれない。AIでも画面や会話を通じて人間と同等以上のモラルリスク排除が行われるべきである。
または、マイナンバーカードにより病歴や入通院歴の開示を条件とするとか、不正請求者のデータ活用など工夫が必要と考えられる。
海外展開の可能性
死亡時や治療代の保障、貯蓄機能など、日本も海外も生命保険商品自体の基本的な構造は変わらない。現地に合わせた商品、システム、通貨、言語を取り込めば海外展開も可能かもしれない。逆に海外でAIによる生命保険募集システムが高いレベルで構築され日本に参入されてしまうと、海外資本により、生命保険市場のコントロールをごっそり持っていかれる懸念もある。実際にはインパクトの大きすぎる外資参入は金融庁が認めないとは思うが。
まとめ
今後5年、10年、20年というスパンで考えれば、人力による課題(弊害)が明確で、なおかつ無形商材で巨大な市場規模をもつ生命保険募集のAI化は自然に進んでいくと考えられる。
顧客にとっては24時間365日、高いクオリティでライフプランや意向を踏まえた相談が気兼ねなくできて、契約、保険金請求もスピーディに行える。
そういう時代が20年後きっと訪れる。
コメント