質権設定とは?
銀行から融資を受けて建物を建てたり、設備を購入したりすると、銀行から「火災保険に質権を設定してください」と言われることがあります。融資の際の一つの条件になっている場合があるのですね。
火災保険における質権設定とは、保険の対象物件が火災などで損害を受けた場合の保険金請求権を銀行(金融機関)が優先的に取得する手続きということになります。
銀行としては、たとえば大規模な火災で対象物件が焼失したことで顧客の事業が立ち行かなくなり、ローンが返せなくなる等の場合に備えた「債権保全措置」というわけです。
契約者側にとってはただただ面倒で何もメリットのない話ですが、最近ではだんだんと銀行側も質権設定をしなくなってきているようではあります。
ある銀行OBの話では「何十年も質権設定してきたけど、一度たりとも保険金を受け取ったことなかったよ」という方もいらっしゃいました。
それでも、火災保険に質権設定をしなくてはならない状況になった場合は、以下のような手順で手続きを行います。
質権設定の手順
銀行から質権設定の依頼があった場合は、まず、その旨を保険代理店または保険会社に申し出ます。
そうすれば、あとは必要な手続きについて保険代理店または保険会社が案内してくれますが、具体的には、通常の火災保険申込書のほかに、「質権設定承認請求書」(保険会社により若干、名称は異なる)が届けられますので、質権設定者(=被保険者(物件所有者))欄に住所・社名等と捺印等の手続きをします。
質権者欄には銀行(金融機関)の捺印等を取り付け(不要な場合もある)、保険会社に火災保険申込書類と一緒に提出します。これは保険代理店経由でもいいし、銀行から直接保険会社に送ってもOKです。
保険会社は、その火災保険契約について質権設定ありとして計上(登録)します。そうすると、何か事故があって保険金を支払う場合、質権者(銀行)の承諾がないと、被保険者(所有者)が保険金を直接受け取れない、ということになります。
質権設定された保険の保険証券は、契約者ではなく質権者(銀行)へ送られ、銀行が保管し、その写しが契約者へ届けられます(ローン完済すれば証券は契約者へ返される)。
なお、上記では火災保険申込書と一緒に「質権設定承認請求書」を提出する場合について記載しましたが、何らかの事由で間に合わないなどの場合は、通常の保険契約締結後、保険証券が契約者の元に届いてから質権設定を行ってもOKです(銀行が認めれば)。
また、これは契約者にはあまり関係がないかもしれませんが、銀行は質権が設定された保険証券が届くと、公証役場にて「確定日付」を取得しているはずで、法的に他の債権者に対する対抗要件を備える手続きをしています。
これも銀行が必ず近隣の公証役場に出向かなくてはならないので面倒な手続きであるため、そういったことも、銀行が質権設定をしなくなってきている一因なのでしょう。
なお、火災保険契約内容の変更の際にも、質権者の同意が必要になる場合があって、当然といえば当然ですが、勝手に保険契約を解約などできないことになっています。
実際の事故時の対応はどうなる?
実際に火災や風災等の事故が起きた際は、まず通常通り保険会社へ事故報告を行い、いくら保険金が支払われるかの保険金支払査定をしてもらいます。
そして、保険金請求の段階で、その事故の概要と顛末について銀行へ報告をし、その保険金を被保険者(物件所有者)が受け取ってもOKという「承諾書」を質権者(銀行)から取り付けます。
承諾書のフォームも保険会社が用意してくれたり、保険会社が直接、質権者(銀行)に連絡して承諾書を取り付けてくれる場合もあります。
いずれにしても質権者(銀行)の承諾が必要になり、通常よりも保険金を受け取るまでの時間がかかってしまいますので、やはり火災保険への質権設定自体にあまり実効性がないとすれば、こういった文化はなくなってほしいな~と個人的には思います。
(注)記載のある各保険については一般的な内容の説明です。