会社が認識しているリスクから保険を考えてみる
お客様から「ほかに入っていたほうが良い保険ってありますか?」と聞かれることがあります。
その場合、同業他社で加入している保険を紹介したり、実際の事故で保険でカバーできた事例などを紹介することがあります。
保険というのはリスクマネジメントの一部分であり、企業を取り巻くリスクは様々で、保険でカバーできるものとできないものがあります。
用意されている保険商品からリスクマネジメントを考えるのも一つですが、企業として認識しているリスクから、保険とのマッチングを考える必要もあると思います。マッチングというのはつまり、そのリスクをカバーするための保険料がリーズナブルかどうかということです。
代表的な製造業の例としてトヨタの有価証券報告書を見ると、【事業等のリスク】の項目には以下のように記載があります。
①自動車市場の競争激化
②自動車市場の需要変動
③お客様のニーズに速やかに対応した、革新的で価格競争力のある新商品を投入する能力
④効果的な販売・流通を実施する能力
⑤ブランド・イメージの維持・発展
⑥仕入先への部品供給の依存
⑦金融サービスにおける競争の激化
⑧デジタル情報技術への依存
①為替および金利変動の影響
②原材料価格の上昇
③金融市場の低迷
①自動車産業に適用される政府の規制
②法的手続
③自然災害、政治動乱、経済の不安定な局面、燃料供給の不足、インフラの障害、戦争、テロまたはストライキの発生
事業継続や収益性を脅かす様々なリスクがありますが、一般的な理解からすると、上記のうち損害保険でカバーできるのは「自然災害」のみで、台風や地震、洪水等による損害は保険でカバーできます。
下線は保険でカバーできる場合もあるリスクです。
このように見ると、他社との競争に負けたときの保険もないし、需要が落ち込んだ場合の保険もない。顧客ニーズが汲めなかったときに保険もないし、効果的な流通網が築けなかった場合の保険もない。為替や金利、仕入れ環境に対応した保険もないし、法規制が変わるリスクに対応する保険もないし、戦争による損害も多くの保険は免責となっています。
ないないづくしですが、一般的に損害保険会社が提供している保険では上記の事業リスクについてはカバーできる範囲は限定的ということかもしれません。
保険でカバーできないリスクに対しては、自社の経営力をUPさせるとか、BCPを策定・強化するとか、サプライチェーンの強化、銀行等によるリスクファイナンスサービスなどを検討するということでしょう。
では、損害保険の役割とは?
上記に挙げられているものが事業としての大きなリスクだとすれば、損害保険がカバーする範囲は小~中リスクだといえるかもしれません。小~中リスクを丁寧にカバーすることで、大リスクに発展しないよう予防をしているようなものです。
たとえば自動車保険では単独の車両損害から、大きい事故だと死亡事故もあります。企業の評判を落とさないためにも自動車保険を活用しつつ丁寧に事故対応を行っていく必要があります。
労災保険なら従業員の業務上のケガ等について保険を活用しつつ丁寧に対応することで問題が大きくなることを防いでいく必要があるでしょう。
賠償責任保険なら、他人または他社に与えてしまった損害について保険でカバーすることができます。保険会社や保険代理店のサポートを得ながらスムーズに事故解決を図り、事業運営の滞りを最小限に留められるよう努める必要があります。
上記の事業リスクについて保険でカバーできるものは少ないと言いましたが、多くのリスクは企業トップや役員の経営判断が関係してきます。一つ一つの経営判断によってリスクを回避し、事業の維持・発展を目指すものだと思いますが、役員の誤った経営判断によって会社が大きな損害を被った場合は、「会社役員賠償責任保険」という保険もあります。
損害と対応する保険
製造業を想定して、保険でカバーできる損害と対応する保険について記載してみます。
損害保険も年々進化していますから、以前は対応できなかったリスクについても保険でカバーできるようになっているケースがあります。より果敢なチャレンジや取引のために保険が活用できないか検証してみるのも事業運営のひとつかと思います。
(注)記載のある各保険については一般的な内容の説明です。