保険料=保険金+事業費+利益
損保会社の収支について確認してみたいと思います。
日本損害保険協会の会員である損保会社28社(2020年時点)はすべて株式会社であり、株式会社であるからには収益を求める必要があります。
とはいえ保険会社はある意味社会的な役割を担っている存在であり、不運にも事故に遭ってしまった加入者の経済的な損失を軽減したり、事故解決までのサポートをしたり、そもそも事故を防止するための活動を行ったりしています。単純に自社の利益を求めるというよりも、一度に多数・多額の保険事故があった場合でも問題なく保険金支払いができるよう十分な資本を蓄えておく必要があるのでしょう。
以下が、ざっくりとした損害保険会社の収支構造です。
保険料が100円だとすれば、そのうち60円を事故時の保険金として被保険者へ支払います(これを損害率60%と表す)。事業費30円のうちだいたい10~20円を保険代理店に手数料として支払い、残りが販管費等の社費になります。そしてうまくすれば10%程度の純利益が出るというビジネスモデルです。
ちなみに2016年度は損保協会加盟会社の損害率が62.1%、事業費率が32.5%とのこと(損保協会ファクトブック2019より)。
ここでコントロールが一番難しいのがやはり保険金がいくら支払われるか、ということで、大型の台風が1年間に複数回到来したり、大地震が起きたなど、大型の自然災害が例年よりも多くなると保険会社の経営は厳しくなります。
また、保険もグローバル化していて、日本の保険会社のリスクを海外の保険会社が再保険として引き受けていたり、逆に海外のリスクを日本の保険会社が再保険として引き受けているので、海外で大型のハリケーンや大洪水がある場合も損保会社の経営に影響があります。
一方、火災事故や自動車事故などはある程度、大数の法則※により予測しやすいとされ、保険会社の安定的な経営に寄与していると言えます。
個別に考えると誰がいつどんな事故に遭うかは予想が難しいものですが、多くのデータを集計することで一定の確率が割り出されます。これを大数の法則といい、保険商品開発のベースとなっています。
具体的に保険会社の決算を見てみよう
2018年度の3メガ損保の決算は以下のようになっています。
2018年度は大型台風の影響で各社の保険金支払いがかさみ、損害率は7割近いですね。それでも各社とも1千億円以上の純利益を出していますが、これはそれまでに積み立てていた「異常危険準備金」の取り崩しも影響しているようです。
ちなみに保険先進国のアメリカでも同じような収支構造のようで、損害率が6~7割、事業費率が3割弱とのこと。(参考:米国保険情報協会ファクトブック2019)
どれだけ保険金を受け取ったら次回の保険料に影響しますか?
個人の自動車保険(9台以下のノンフリート契約)の場合は、事故を起こして保険を使えば等級がどれだけ変わり、次回の保険料がどうなるか予測がつきます。しかし自動車保険以外の保険については良く分からないという方が多いと思いますし、事故があると良く聞かれる質問です。
個人のリスクとは異なり、企業のリスクというのは大規模な施設を有していたり、立地や施設の特性または、その企業特有の業務から一定個別性があり、大数の法則だけでは測れない難しさがあります。たとえば落雷事故が多い企業、雪災事故が多い企業、風災事故が多い企業など特徴が出てきます。
したがって、個人の自動車保険のように「一度事故を起こしたら次回の保険料は〇%アップ」というテーブルは基本的には存在せず、どれだけ保険料が上がるかが分かりにくいといえます。
一つの考え方として、損保会社の収支構造をイメージする場合、損害率60%程度までなら保険会社はOKと考えてくれるケースもあります。また、過去1年だけで評価するのではなく、過去5年や過去10年でのその企業の契約の損害率を鑑み、次回の保険料決定の要素になることもあります。
また、損害率だけでなく、保険金が支払われたその事故が極めて稀な事故であり、もう一度起こる可能性が非常に低いと見られれば、次回保険料への影響は少ない場合もありますし、その企業が十分な再発防止策をほどこすことができた場合も保険会社はポジティブに考えてくれることもあります。
まとめると、
・再発しにくい事故なら次回保険料への影響は少ない
と言えます。
逆に似たような保険事故が頻発し、今後も同様の事故での保険金支払いがありそうだと判断されると保険料がアップしやすかったり、免責金額などの設定を要求されたりすることもあります。
(注)記載のある各保険については一般的な内容の説明です。