役員個人に対する訴訟事例
まず、会社役員賠償責任保険(D&O保険)の被保険者(保険金を請求できるひと)は役員個人となります(会社ではありません)。役員賠償責任保険は役員個人の財産を守るための保険です。
「株主代表訴訟」という言葉が一般化しつつあり、役員賠償責任保険には上場企業の9割が加入しているといわれますし、非上場企業でも一定規模以上または株主代表訴訟の恐れが少しでもあるとか、または外部から役員を招くため(特に外国人を招く場合等)に必須の保険だとして加入するケースがあります。
ニュースにもなった訴訟事例には以下のようなものがあります。
・東芝不正会計事件 歴代役員に対し約27億円の訴訟提起
・オリンパス損失隠し問題 役員14人に対し約13億円の訴訟提起
・ヤクルト デリバティブ取引により会社に多額の損害を生じさせた事件 副社長1名に対し約67億円の支払命令
・ダスキン(ミスド)不法添加物混入問題 役員が連帯して約53億円の支払命令
何億円という支払い命令が個人になされた場合、払いきれずに自己破産ということもあるでしょう。そういったリスクをよく認識している欧米では会社役員になる場合は必ず会社で役員賠償責任保険に加入しているか確認するようです。
また、役員賠償リスクがあることも、欧米の役員報酬がそもそも高額になる一因であるともいわれます。
株主代表訴訟というのは、「会社が損失を被ったのはあの役員のせいだ!」として会社に代わって訴訟提起をするものです。何らかの事件や不正が明らかになると上場企業であれば株価が下がります。株価が劇的に下がりその損失分を役員個人で弁償させる、それが株主代表訴訟のひとつの例でしょう。
では、役員賠償責任保険に加入していれば役員個人は安心なのかというと、完全には安心できなく、なぜならば、支払限度額は役員全員合わせて10億円~20億円程度が一般的な引受限度となります。
よっぽどの有名大企業であれば役員賠償責任保険の支払限度額が50億円という例もあるようですが、一般的ではありません。
保険料の目安は非上場の中小企業で数十万円、大企業でも100万円~300万円程度が多いです。
(リスクの大きさにしては安い、と感じてしまうのですがいかがでしょうか・・)
普通保険約款部分と株主代表訴訟部分
普通保険約款部分では、会社役員としての業務を行った行為に起因して損害賠償請求がなされたことにによって被る損害(役員個人が負担する賠償金など)について保険金を支払う、というような記載があります。
とても簡単な表現ですが、では訴えられたら何でも保険対応してくれるのかというそそうではなく、一般的には以下のような免責事項があります。
・私的な利益または便宜の供与を違法に得た
・犯罪行為
・被保険者に報酬または賞与等が違法に支払われた
・インサイダー取引
・初年度契約の保険期間の開始日より前に行われた行為
・初年度契約の保険期間の開始日より前に会社に対して提起されていた訴訟
・汚染物質の排出、流出、漏出
・核物質、放射能汚染
・他の被保険者(役員)からなされた損害賠償請求
また普通保険約款部分では株主代表訴訟については免責となっており、株主代表訴訟については特約で対応、という整理になっています。(いまのところ・・)
株主代表訴訟部分の保険料は役員個人が負担していたが・・
株主代表訴訟の場合、原告側が会社、被告側が役員個人という立場関係になります。役員個人を守るための保険を原告側になる会社が負担するのは商法上問題がある(利益相反)になるのでは?ということで、株主代表訴訟部分については特約とし、その保険料は役員個人の負担という整理がなされました。
ただし、現在では、所定の手続きを経ることで役員の個人負担をゼロにすることも可能です。
②以下のいずれかの方法により、社外取締役が監督を行い、適法性や合理性を確保する
・社外取締役が過半数の構成員である任意の委員会の同意を得ること
・社外取締役全員の同意を得ること
そうすると、株主代表訴訟部分についてわざわざ特約化せず、今後は普通保険約款で株主代表訴訟もカバーする、という内容にアップデートされていくものと思われます。
まとめ
たとえ小さな同族会社だとしても、「不動産取引に失敗して損失が出た」といったよくありそうな問題でも同族の株主から訴えられないとも限りません。また、役員賠償責任保険は特約で雇用慣行(セクハラ、パワハラ)に対するリスクもカバーしてくれる場合もあります。それほど保険料が高くない分野なので少しでも気になることがあれば複数社の見積もりをとってみると良いかもしれません。
(注)記載のある各保険については一般的な内容の説明です。