業務遂行上の対人・対物事故は「施設賠償責任保険」
施設という言葉からイメージしにくいかもしれませんが、業務遂行上の対人・対物事故については「施設賠償責任保険」で対応できます。
施設賠償責任保険は、
・所有、使用、管理する施設の管理不備に起因する対人・対物事故
・業務遂行上の対人・対物事故
この2つの場合に保険金が支払われます。
自転車での事故は業務遂行上ということになります。
業務遂行上というと幅広い意味合いになってしまいますが、施設賠償責任保険のカバー範囲としてはたとえば車両の使用に伴う事故については対象外となっております。車両の使用に伴う事故については「自動車保険」の範疇ということで、保険の分野調整ということになります。
施設賠償責任保険の業務遂行上の事故とは、自転車での事故とか、台車をおしている際の事故とか、歩いていてぶつかったとか、そういった場合を想定しています。
また、賠償責任保険で勘違いしやすいのが、その事故について契約者(被保険者)が非を認める必要があるということです。
賠償責任保険は法律上の賠償責任を負担することによって被る損害について保険金が支払われるものですから、被保険者に過失がないと保険を機能させることができません。
つまり、「その事故については自分(自社)に過失があって法律上の賠償責任があることを認めます。だから保険払ってくださいね」ということになります。
ときどき、その事故について自分(自社)の正当性を主張しようとする場合がありますが、自分(自社)の非を認めない姿勢を貫く限り、賠償責任保険は機能しない、という関係性を認識しておきましょう。
ちなみに施設賠償責任保険は一部のケースを除いて保険会社による示談交渉サービスはありませんので、相手方と直接やり取りするのは基本的に当事者(被保険者)ということになります。示談交渉サービスは自動車事故で保険を使用する場合等一部で認められている制度なのです。
とはいえ、保険会社や保険代理店は、契約者(被保険者)に対し、事故解決までどのように進めていけばよいかのアドバイスはできますので、そのあたりは上手く活用しましょう。
従業員のケガは労災でカバー
業務で自転車を使用し、従業員がケガをした場合は労災保険ということになります。
自転車で転んでケガをした場合や、従業員同士が衝突してケガをした場合も、賠償責任保険は使用できず、労災保険になります。
このあたりも保険の分野調整がなされています。
ちなみに、衝突された従業員が非番の場合は業務外ということで労災保険は使えません。非番の従業員は保険上「他人」となりますので、施設賠償責任保険が機能することになります。
社員でない人に自転車を貸した場合は?
社員でない人に業務上自転車を貸して、その人が対人・対物事故を起こした場合はどうなるでしょう?
施設賠償責任保険の被保険者(=保険金を請求できる権利のある人)が誰かということがひとつポイントになります。
施設賠償責任保険の被保険者は、
① 記名被保険者(その法人)
② 記名被保険者の使用人等(勤務中)
となります。
ある保険会社の賠償責任保険約款には、以下のように記載があります。
つまり、勤務中の従業員だけでなく、派遣社員も基本的には被保険者であり、派遣社員が自転車で起こした対人・対物事故もその企業が契約している施設賠償責任保険で対応可能、ということになります。
それ以外の業務委託者や出入り業者などは被保険者になりませんので、個別に賠償責任保険に加入しておいてもらう必要があるか検討しておくのもリスクマネジメントのひとつでしょう。
通勤で自転車に使う場合は?
通勤は業務上か、という問題になるかもしれませんが、一般的な解釈でいえば通勤は業務上とみなされないケースが多いようです。通勤中のケガについては労災保険の対象になりますが、対人・対物事故については施設賠償責任保険で対象外になってしまうので、自転車で通勤してくる従業員については各自で「個人賠償責任保険」への加入を義務付けるなどの対応をしておくのがベターでしょう。
(注)記載のある各保険については一般的な内容の説明です。