企業が加入するべき火災保険の考え方(基本)
企業の損害保険といえば、ほとんどの会社が火災保険に加入していると思われます。
建物や設備を所有していれば火災保険の対象になりますし、賃貸で事務所などを借りている場合でも、デスクやキャビネット、造作などの設備什器備品などを対象として火災保険に加入するでしょう。
賃借人(借主)としての立場の方から時々ある質問で、
「建物は所有していないから火災保険は必要ないのでは?」
と質問をいただくことがあります。
建物オーナーの火災保険はあくまでも、オーナー所有の建物の損害を対象として保険金が支払われるので、賃借人(借主)所有の設備什器備品等は火災などの被害にあっても関係ありません。
つまり、自社の「所有物」に対して火災保険は機能する、と考えましょう。
また、賃借人(借主)の過失で火災を起こした場合は、賃貸借契約上の原状回復義務に沿って、建物の被害についても賠償義務を負います。
住居用のアパートやマンションなどを不動産業者を通じて借りる場合は、ほとんどのケースで火災保険にほぼ自動的に加入させられます。
(ちなみに不動産業者以外で加入してもOK)
この場合の火災保険は以下の3つの保険の組み合わせが基本です。
・家財を対象とした保険
・借家人賠償責任保険(オーナーの建物に対する賠償)
・個人賠償責任保険(他人への対人・対物賠償 たとえば階下への漏水等)
ところが、企業が不動産を賃貸する場合、火災保険への加入を義務付けているところばかりではなく、多くの場合、賃借人(借主)の任意となっているようです。
保険加入は任意だとしても賃貸借契約を結んでいる以上、賃借人(借主)の過失を伴う事故による建物の原状回復義務は負うことになりますので、少なくとも借家人賠償責任保険は加入しておくのがベターかと思います。
(ただし、借家人賠償責任保険は単独では契約できないので火災保険の特約としてセットするのが基本となる)
火災が発生!保険金請求はどのようにすればよい?
火災などにより自社所有物の損傷が起きた場合、
(まず、沈静化させるのは当然として)
保険金請求をするためには、少なくとも以下3点は必ず必要になります。
・修理見積り
・事故状況の説明(自社内の報告書があればその写しでOK)
写真は「損傷部分」および「全景」が分かるように撮ってもらう必要があります。
保険会社は事故現場に必ず調査に行くわけではなく、小損害(たとえば100万円未満)の場合は写真と事故の状況報告だけで保険金支払可能かを判断するケースが多いです。
そのため、写真は損傷部分だけではなく、建物等の全景も撮ってもらい、写真と事故状況説明によりどんな事故だったのかを保険会社に理解してもらう必要があります。
保険会社(または損害鑑定会社)が現場確認を行う場合でも、すぐに駆け付けられないことも多いので、少なくとも損害状況が分かる写真は撮っておいてもらう必要がありますが、撮り忘れた場合でも保険金が支払われないということはありません。たとえば仮復旧後の写真でもいいし、状況については誠実に説明をすれば保険会社は理解してくれます。
契約者の中には、昔のイメージで保険会社はできるだけ保険を払わないように難くせをつけてくると思い込んでいる方もいらっしゃいますが、2005年頃の保険金不払い問題の影響もあってか、現在はできるだけ速やかに保険金を支払う、というスタンスですし保険金支払部門の方々は割と親切な方が多いように個人的には感じています。
損害箇所はすぐに復旧しても構わない?
事故後は事業を運営する上でもできるだけ早く復旧したいという思いと、保険会社の確認前に復旧してしまっていいのだろうか、という疑問が出る場合があります。
写真や事故状況の説明ができて、保険会社が事故状況や損害の程度を理解できていれば、復旧を進めて構わないでしょう。
(個別の事故については都度、保険代理店や保険会社にご確認ください)
大事なのは、保険金を請求できるかもしれない事故が起きたら速やかに保険会社に報告をすることです。
保険商品パンフレットや重要事項説明書等にも「事故発生時には遅滞なく保険会社へ通知ください。遅滞なく通知頂けなかった場合は保険金の一部または全部が支払われないことがあります」という旨の記載があります。
とりあえず分かっている情報だけでもすぐに連絡を入れることが大事です。
損傷した物件は廃棄していいの?
火災保険については、何社かの約款を確認したところ、「保険会社が特に求めなければ残存物の権利は保険会社へ移転しない」となっております。
つまり、火災保険の場合は修理業者に復旧と同時に残存物の処分も依頼しちゃってOKです。
ただし、動産総合保険についてはある保険会社の約款よれば、「全損となった場合で保険金の全額を支払った場合には、保険会社は保険の対象に関する一切の権利を取得します」とあります。
保険会社や保険種類によってスタンスは異なりますので、損傷した物件について廃棄していいかどうかは都度保険代理店や保険会社に確認した方がよいでしょう。
支払われる保険金の種類
修理見積額がそのまま保険金として支払われることもありますが、修理見積の各費目によって大きく以下のように分けて計算されます。
1.損害保険金
保険の対象物を復旧する直接的な費用で、修理にかかる妥当な費用や再取得する物件の費用などが該当します。
2.臨時費用
保険契約内容にもよりますが損害保険金のたとえば30%(500万円限度)が上乗せされます。修理見積りに載ってこない社内の目に見えない対応コストなどを考慮したものです。保険料を抑えるためにこの費用部分をカットしたり、上乗せ割合を減じている契約もあります。
3.残存物取片付け費用
損害が生じた物件の処分費用が該当します。
4.修理付帯費用
仮復旧費用、夜間作業割増、事故原因調査費用、点検費用、代替物賃借費用、超過勤務手当などが該当します。
5.その他
失火見舞費用、地震火災費用などが支払われる場合もあります。
なお、復旧を条件にした保険金支払をする契約の場合を除けば、復旧後の写真は提出不要です。
保険金を受け取るまでの流れ
↓
写真、修理見積等を提出
↓
支払保険金額の決定(必要情報が揃ってから1週間前後)
↓
保険金請求書類の提出
↓
保険金支払(保険金請求書類提出後1~2週間)
スムーズに事が進めば、事故から2週間程で保険金支払いまで完了することもあります。
まとめ
契約者の中には、自社の保険契約をよく理解していない方もいらっしゃいます。
よく確認すると保険請求できた事故も気づかず請求していないケースもよくあります。
火災保険の保険金請求は、小損害の場合、用意するものは写真と修理見積りだけで済むことが多いので割と簡単です。
まずは自社の保険契約をもう一度確認してみることもリスクマネジメントのひとつかと思います。
(注)記載のある各保険については一般的な内容の説明です。