賠償責任保険の種類(例)
法人として事業活動を行っている場合、何らかの賠償責任保険に加入していることがほとんどでしょう。
(↓賠償責任保険の例)
賠償責任保険の種類 | 対応するリスク |
・施設賠償責任保険 | 施設の所有、使用、管理および業務遂行上の対人・対物リスク |
・生産物賠償責任保険(PL保険) | 生産、製造した物の欠陥または完成した作業の欠陥による対人・対物リスク |
・請負業者賠償責任保険 | 請け負った建設または作業の最中の対人・対物リスク |
・受託者賠償責任保険 | 預かっている物を損傷、滅失させるリスク |
・使用者賠償責任保険 | 従業員の就労環境における安全配慮義務違反リスク |
・サイバー保険・個人情報漏えい保険 | サイバー攻撃による損害賠償または情報漏えいリスク |
・会社役員賠償責任保険 | 役員や管理者の善管注意義務違反、職務怠慢、経営判断ミス等に起因し訴えられるリスク |
・業務過誤賠償責任保険 | 対人・対物事故は生じていないが、業務ミスにより他人に経済的な損害を与えてしまうリスク |
賠償責任保険はほとんどの場合1年ずつの契約更新となりますが、更新の際は、支払限度額をいくらに設定すべきかという検討はあまりなされません。
「これまで●億円だったから、今回も同じね」という感じの確認をするだけが多いのではないでしょうか。
しかしながら、新規で賠償責任保険を契約する場合や、何かのきっかけで支払限度額の設定を検討しなければならないこともあるでしょう。
その場合の支払限度額設定はどうすれば良いか、以下を参考に検討してみてください。きっと納得感のある契約ができると思います。
必ず複数パターン見積もりしてもらう
保険代理店や保険会社に見積もりを依頼する場合は、複数パターンの提案をお願いしましょう。
つい遠慮してしまって「見積もりお願いします」だけとか、「補償内容は一般的な感じでいいです」という方がいますが、それはもったいないです。
見積もりをする場合、保険代理店や保険会社は正確な見積もりを1パターンつくるまではある程度の時間がかかりますが、支払限度額を変えるだけならあとは何パターンでもシステムで簡単に出力できます。
ですので、見積もり依頼する場合は、「支払限度額を3パターンくらい、免責金額も2~3パターンお願いできますか?」などと言ってみましょう。
また、可能なら保険会社も2~3社比べてみるとより良いです。
CASE )
食品メーカー、売上30億円、施設賠償責任保険
ある保険会社で見積もりすると、保険料は以下のようになります。
・支払限度額1億円 年間保険料=約24万円
・支払限度額3億円 年間保険料=約32万円
・支払限度額5億円 年間保険料=約36万円
・支払限度額10億円 年間保険料=約43万円
たとえば、支払限度額を1億円→10億円にしても保険料は10倍になりません。それはなぜでしょうか?
支払限度額を上げても保険料がさほど上がらない理由は、「高額な賠償事故は極めて発生件数が少ない=保険会社が集める保険料は少なくて済む」ということです。
(例)
・100万円の事故が1万件あれば、支払源資は100億円必要になります。
・1000万円の事故が100件あれば、支払源資は10億円必要になります。
・1億円の事故が1件あれば、支払源資は1億円必要になります。
このような感じで、高額な事故は件数が少ないため、支払限度額を上げても保険料はさほど上がらない理屈になります。
火災保険系は保険金額に比例して保険料が上がるケースが多いですが、賠償責任保険は支払限度額を上げてもそんなに保険料は上がりませんので、億劫がらず支払限度額は複数パターンを検討した方がよいでしょう。
実際の高額事故例や、想定される事故から支払限度額を考える
まず、賠償責任保険分野において一般的には保険会社が引受られる支払限度額は「10億円」が一つの目安です。
1契約あたり10億円までなら割と問題なく見積もりできるケースが多いです。
それを超えるような場合は、引受申請に時間がかかったり、または他の保険会社との組み合わせによって合計の支払限度額を上げるという手法もあります。
とはいえ、支払限度額がいくらあれば十分かは、自社の業務における最悪な事故を想定するとよいでしょう。
実際の事故例としては以下のようなものがあります。
事故概要 | 賠償額 | 業種 | 事故分類 | 事故原因 |
スキー場で滑降中の客が転倒、周囲の雪が溶けて窪地になっている部分に落下、負傷。後遺障害が生じた。 | 約14,000万円 | スキー場 | 対人 | 施設管理不備 |
賃貸ビルの排水管が詰り、汚水・雑排水が賃貸住宅部分およびテナント複数店舗に濡れ損を与え、物損害と休業損害が発生した。 | 約13,000万円 | 不動産賃貸 | 対物 | 施設管理不備 |
スカイダイビング参加者がインストラクターと二人でタンデムパラシュートにて降下中、メインパラシュートおよび予備用パラシュートが器具に絡まり開かなかった為、地面に激突、両名とも死亡。 | 約13,000万円 | スカイダイビングクラブ | 対人 | 財物管理不備 |
地下埋設の送水管が老朽化により破損、急勾配の市道を濁流となって流れて市道に面した住宅、店舗、医療機関等に損害を与えた。 | 約10,000万円 | 水道 | 対物 | 施設管理不備 |
スイミングスクールで飛び込みの指導を受けていた生徒が、プール底に頭部を強打、負傷。後遺障害が生じた。 | 約10,000万円 | スイミングスクール | 対人 | 指導の不備 |
「対人事故」の場合は、たとえば、若くて年収が高い方が高度後遺障害になるケースにおいて賠償金が大きくなりやすいと考えられます。
ケガによって得られなくなった生涯の逸失利益に加え、介護費用もかかるからです。
それが複数人になったら・・などと考えると賠償責任保険の支払限度額は数億円以上に設定しておいた方がよいかもしれません。
交通事故による高額賠償事例としては被害者1名で3億円や5億円という判例もあります。
「対物事故」の場合でも、単に物損というだけでなく、それに関連して長期の休業を余儀なくされた場合、その利益損失も請求される可能性があります。1日あたりの売上が大きい客先の仕事をする場合など、万一の事故の場合、休業損害まで想定する必要があるか考えてみるとよいでしょう。
これらを踏まえたうえで、それでも高額な事故は起きないと思うなら支払限度額は1000万円でもいいでしょうし、やや低めの1億円でもいいでしょうし、3億円、5億円、10億円など予想される事故と保険料見合いを検討すれば、より納得感のある契約になると思います。
(注)記載のある各保険については一般的な内容の説明です。