どの保険会社も保険料が同じというのは昔の話
明治時代に誕生した日本の保険会社は、戦後ボロボロになった経済の影響を受けて経営状況は惨憺たるものだったといいます。
そのため損害保険業界は、損害保険の安定供給を目的として「損害保険料率算定会」を発足させ、各損害保険会社は同じ保険商品、同じ保険料率を用いることになりました。
これは、経営体力の乏しい会社でも潰さないようにするための「護送船団方式」といわれ、自由競争主義を主張するアメリカからは批判を受けていましたが、戦後50年以上も保険はどの保険会社でも同じ商品、同じ保険料でやってきたのです。
競争原理が働かないということは顧客にとっては割高な価格だったかもしれません。談合禁止とか独占禁止法のルールからも除外されていたようで、経営体力の弱い会社にとってはありがたい制度だったようです。
保険料が変わらない弊害はもう一つあり、事故が起こっても次回更新時の保険料が変わらないので、顧客が事故防止策を真面目に考えないようになることです。これでは顧客企業の健全な発展に寄与しづらいといえます。
1996年の保険業法改正の際になってやっと、保険料率の自由化が決定されました。その後各社が独自の商品開発を進めたり、割安な保険料を積極的にPRする外資系保険会社(ダイレクト自動車保険など)が登場したり、保険を比較する保険ショップが登場したりしました。
その過程でいくつかの保険会社が経営破たんしましたが、顧客にとっては、同じ保険内容でもかつてに比べて割安な保険料で保険を購入することができるようになったということです。
企業損保で交渉の余地がある保険種類とは?
ここでいう保険料割引の余地というのは、各保険会社が定価で提示する保険料のさらに先という意味です。
交渉次第で保険料割引の余地のない保険と、交渉の余地のある保険があります。
保険料割引交渉の余地がない、または見込めない保険
個人契約の保険、自動車保険、契約保険料が概ね20万円未満、海外旅行保険、ベーシックな傷害保険 など
(契約保険料が概ね20万円以上を前提として)
事業用物件を対象にした火災保険、賠償責任保険、動産総合保険、運送保険、外航貨物保険、取引信用保険、サイバーリスク保険、建設工事保険、労災総合保険 など
各保険会社によってもその時々で引受規定やスタンスが変わりますし、効率化・シンプル化の流れでいうと、交渉の余地のない保険商品も増えているような気がします。
交渉の余地があるということは、余分な人手を介すということであり、働き方改革やAI時代を考えると、20~30年後には保険料交渉の余地のある保険はほとんどなくなるんじゃないかという予測もあります。
保険料割引のカギは損害率、事故防止策、総取引ロット、他社対抗、未来への期待
保険料割引交渉の余地のある保険については、以下のような要素が関係してきます。
損害率
保険種類や事故の種類・状況にもよりますが、過去1年、過去3年、過去5年、過去10年などのスパンで、預かっている保険料と、支払った保険金の割合が見合うかどうかがポイントとなります。
損害率 = 支払保険金 / 保険料
日本の保険会社は予定損害率を概ね60%前後と見ており、保険会社全体の損害率や保険種類ごとの損害率が60%程度までであれば採算ラインにのるようです。
(参考)
保険会社との交渉のためにも、過去の保険料と支払保険金について整理しておくことが大切です。
事故防止策
個人契約の保険に比べて、法人契約の保険は、その企業特有の事故傾向が現れやすいものです。
たとえば、落雷が多いとか、風災での被害が多いとか、施設の細かい破損事故が多いとか、雪災が多いとか、機械的事故が多いとか、事業形態や立地、所有施設の状況などにより、その企業特有の発生しやすい事故というものがあります。
自社で発生しやすい事故について、いつも保険に頼っていたのでは保険会社としてもその分保険料を上げなければならなくなります。
自社で発生しやすい事故、または大きな事故が起こらないように十分な事故防止対策を立てている企業については保険料割引の交渉がしやすくなります。
大規模物件については、保険会社の関連会社であるリスクコンサルティング会社にて現地のリスクサーベイ(物件調査)を行い、事故防止対策の状況を確認したり、事故防止対策のアドバイスを行うサービスもあります。リスクサーベイを行うことでリスク管理状況が確認できた、または改善されたとなれば保険料の交渉もしやすくなります。
総取引ロット
損害保険の新規契約を1件する場合、他に取引がある企業と、まったく初めての取引の場合では、保険会社も引受スタンスが違います。
馴染みの客と一見さんということでいえば、保険も同じです。
十分にほかで採算がとれている保険契約があるとすれば、新規契約についても割引を考慮してくれる可能性が高くなります。
他社対抗
保険料割引交渉においては、他社対抗という理由付けも効果的です。
保険会社とは保険契約後も上手く良好な関係を保ちつつ付き合っていく必要がありますので、無理難題ばかりを押し付けるのはNGですが、他社とフェアに相見積もりをします、というスタンスで臨めばリーズナブルな保険料提示がなされることがあります。
未来への期待
その契約が近い将来、より大きな取引になる(事業拡大)とか、他の契約も期待できるという場合、保険料交渉の材料になり得ます。
まとめ
企業の損害保険契約では進め方次第でもっと保険料が安くなる場合があります。
特に、大都市部以外に所在する会社についてはまだまだ競争原理が働いていないケースが多いように感じます。
数年間、相見積もりをしていない場合などは、更新の際にでも保険料がもっと安くならないか尋ねてみるのもよいでしょう。
(注)記載のある各保険については一般的な内容の説明です。