キャプティブ保険を極めてシンプルに説明すると
「キャプティブ保険」というと、ほとんどの方が聞きなれないと思いますが、欧米では大企業のうち8割以上が活用していたり、日本でも超大企業(自動車メーカー、総合商社、保険会社など)がキャプティブ保険を導入しています。
キャプティブ保険とは、自家保険の一種であり、海外の税率の安いタックスヘイブンといわれる国々に自社オリジナルの保険子会社を設立し、自社内で小さな保険事業を行う、というものと言えます。
たとえば毎年、損害保険料で1億円以上支払っていて損害率の低い企業でしたら、キャプティブ保険を活用することで、無駄に保険会社に儲けさせることなく、合理的にリスクヘッジをすることが可能になるかもしれません。
キャプティブの仕組みをごく簡単に図にすると↑のようになります。
もし、まったく事故のない損害保険に、毎年1億円の保険料を支払っている場合、たとえば次のような比較ができます。
通常の損害保険料支払の場合・・・
1億円の保険料(損金) 実効税率が30%として実質的コストは7000万円。
キャプティブ子会社がある場合・・・
1億円の保険料(損金)
保険会社が10%・1000万円の手数料を差し引き、キャプティブ子会社へ9000万円が流れる。
事故がなければ、9000万円が留保される。
つまり、実質的なコストは1000万円のみ。
保険事故があった場合は、損害に対して負担する費用と、キャプティブから受け取る保険金を相殺すれば益金も発生することがない、ということになります。
ただし、保険事故が発生した場合、支払余力は1年目は9000万円しかないわけで、保険として十分に機能しないおそれがありますが、2年目、3年目・・・とキャプティブ子会社での留保額が積み重なれば、支払余力が増加して、いつか十分な保険として機能するようになります。
それまでは、普通の保険と組み合わせたり、キャプティブからさらに再々保険をかけて、必要なカバーを用意しておく必要があるでしょう。いずれ普通の保険が不要なほど、キャプティブに支払余力がつけば、以後、無駄な保険料を支払う必要がなくなります。
また、キャプティブは自社オリジナルの保険ですので自由にアレンジが可能で、保険会社が引受けないリスクを保険化できるメリットもあります。
キャプティブ設立にあたっては、保険会社のアドバイスも得ることができますし、保険事故の際には、(元受)保険会社が必要な査定業務などを行ってくれます。
日本にキャプティブが広まらない理由
欧米に比べて日本ではキャプティブを採用している企業が少なすぎるといわれます。その理由は以下2つが考えられます。
1.キャプティブが広まると保険会社が儲からない
通常の保険の場合、保険会社に残る利益は2~3割程と言われますが、キャプティブになると、よくても保険料のうち1割程度の手数料しか残りません。したがって、保険会社は積極的にキャプティブを推進しにく立場にあるといえます。
2.税務署を敵にまわしたくない
タックスヘイブンの国にキャプティブを設立するということは、日本に税金を落とすのではなく、基本的にはその国に税金を支払うことになります。日本においては税収減になり、また、パナマ文書のように脱税行為とみなされるおそれがある=めんどくさい、と考えられがちです。
日本特有のリスク(地震・噴火)におけるキャプティブ保険の可能性
日本における特有のリスクとして、大地震や大噴火が考えられます。
日本の事業会社は地震や津波、噴火のリスクを認識しつつも、保険料が高いために地震保険に加入している企業は全体の1割程度に留まっているといいます。
損害保険会社が引受リスクをそれなりに高く見積もっているため、保険料も高くなるわけです。
これらの地震、噴火リスクを損害保険会社に頼るのではなく、キャプティブとして保険化できれば、特に中小企業にとっては新たなリスクヘッジ手段またはBCPの補完になり得るでしょう。
また、地震保険を保険料が高いために契約していない多くの企業にとっては、新たな地震・噴火リスクヘッジ手段になります。
中小企業1社ではキャプティブがつくりにくいので、団体保険のように何十社、何百社という規模でキャプティブ保険が組成できれば、地震や噴火の際、財物損害だけでなく、保険会社が引受たがらない利益リスクもカバーできるようにもなります。
損保会社や国税の助けも必要かもしれませんが、地域や関係するサプライチェーン上どうしても必要な中小企業を地震や噴火のリスク(倒産)から守るためには、キャプティブの仕組みも一つの選択肢として真剣に考えていく必要があるように思います。
(注)記載のある各保険については一般的な内容の説明です。