想定する大規模水害とは?
東京の東部低地帯に位置する江東5区(墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区)は、1000年に1度という頻度の大規模水害を想定して、2015年に専門の協議会を設置し、避難等の対応方針を策定、改めて「江東5区大規模水害ハザードマップ」及び「江東5区大規模水害広域避難計画」を策定したことを2018年8月22日に発表しています。
近年の風水災の大規模化、高頻度化や、これまでの常識とは異なる地域での大規模洪水等、とりわけこの江東5区の住人の多さを考えると実効性のある対策が必要ですね。
↓2019年の大規模風水害
2015年10月「江東5区大規模水害対策協議会」を設置
2016年8月「江東5区大規模水害避難等対応方針」策定
〃 「江東5区広域避難推進協議会」を設置
2018年8月「江東5区大規模水害ハザードマップ」及び「江東5区大規模水害広域避難計画」を策定
この協議会には、東京大学大学院情報学環特任教授や国交省、気象庁、東京都、警視庁、消防庁、首都高、東京メトロ、JR、私鉄各社も参加しています。
「江東5区大規模水害ハザードマップ」及び「江東5区大規模水害広域避難計画」によれば、3日間の総雨量が荒川周辺で632mm、江戸川周辺で491mmという集中豪雨を想定すると、荒川・江戸川が氾濫、5区のほとんどの地域が少なくとも50cm以上浸水し、場所によっては10メートル浸水するところもあるといいます。
3日間の総雨量が400mm~600mm台になる可能性は?
では、3日間の総雨量が632mm、491mmにもなる可能性はどれほどあるのでしょう?
72時間(3日間)降雨量TOP50(気象庁HPより編集)
都道府県 | 地点 | 地点ごと観測史上1位の値(mm) | 日付 | |
1 | 奈良県 | 上北山(カミキタヤマ) | 1,653 | 2011/9/4 |
2 | 三重県 | 宮川(ミヤガワ) | 1,519 | 2011/9/4 |
3 | 宮崎県 | 神門(ミカド) | 1,322 | 2005/9/6 |
4 | 高知県 | 魚梁瀬(ヤナセ) | 1,320 | 2018/7/7 |
5 | 宮崎県 | えびの(エビノ) | 1,306 | 2005/9/7 |
6 | 奈良県 | 風屋(カゼヤ) | 1,303 | 2011/9/4 |
7 | 香川県 | 内海(ウチノミ) | 1,231 | 1976/9/12 |
8 | 高知県 | 繁藤(シゲトウ) | 1,186 | 2014/8/5 |
9 | 高知県 | 本山(モトヤマ) | 1,132 | 2014/8/4 |
10 | 和歌山県 | 西川(ニシカワ) | 1,114 | 2011/9/5 |
11 | 鹿児島県 | 紫尾山(シビサン) | 1,113 | 2006/7/23 |
12 | 徳島県 | 福原旭(フクハラアサヒ) | 1,111 | 1976/9/13 |
13 | 静岡県 | 天城山(アマギサン) | 1,099 | 1983/8/18 |
14 | 和歌山県 | 本宮(ホングウ) | 1,098 | 2011/9/3 |
15 | 神奈川県 | 箱根(ハコネ) | 1,092 | 1983/8/18 |
16 | 和歌山県 | 色川(イロカワ) | 1,091 | 2011/9/4 |
17 | 高知県 | 鳥形山(トリガタヤマ) | 1,069 | 2014/8/4 |
18 | 三重県 | 御浜(ミハマ) | 1,043 | 2011/9/5 |
19 | 山梨県 | 山中(ヤマナカ) | 1,024 | 1983/8/18 |
20 | 和歌山県 | 龍神(リュウジン) | 1,020 | 2011/9/4 |
21 | 鹿児島県 | 名瀬(ナゼ) | 1,012 | 1976/9/12 |
22 | 高知県 | 本川(ホンガワ) | 1,007 | 1999/7/29 |
23 | 高知県 | 池川(イケガワ) | 1,001 | 1999/7/29 |
24 | 宮崎県 | 諸塚(モロツカ) | 1,000 | 2005/9/6 |
25 | 高知県 | 高知(コウチ) | 999 | 1976/9/13 |
26 | 沖縄県 | 与那国島(ヨナグニジマ) | 984 | 2008/9/16 |
27 | 奈良県 | 玉置山(タマキヤマ) | 983 | 2011/9/4 |
28 | 奈良県 | 天川(テンカワ) | 982 | 2011/9/4 |
29 | 徳島県 | 木頭(キトウ) | 981 | 2004/8/2 |
30 | 鹿児島県 | 大口(オオクチ) | 981 | 2006/7/23 |
31 | 鹿児島県 | 肝付前田(キモツキマエダ) | 956 | 2005/9/7 |
32 | 栃木県 | 那須高原(ナスコウゲン) | 955 | 1998/8/29 |
33 | 鳥取県 | 大山(ダイセン) | 955 | 2011/9/5 |
34 | 三重県 | 尾鷲(オワセ) | 942 | 1977/8/27 |
35 | 和歌山県 | 栗栖川(クリスガワ) | 935 | 2011/9/4 |
36 | 静岡県 | 井川(イカワ) | 933 | 2011/9/4 |
37 | 愛媛県 | 成就社(ジョウジュシャ) | 931 | 2005/9/7 |
38 | 高知県 | 後免(ゴメン) | 928 | 1998/9/27 |
39 | 高知県 | 船戸(フナト) | 919 | 2014/8/10 |
40 | 香川県 | 引田(ヒケタ) | 917 | 1976/9/12 |
41 | 兵庫県 | 家島(イエシマ) | 903 | 1976/9/12 |
42 | 栃木県 | 奥日光(オクニッコウ)(日光(ニツコウ)) | 895 | 2001/9/11 |
43 | 和歌山県 | 新宮(シングウ) | 894 | 2017/10/23 |
44 | 宮崎県 | 加久藤(カクトウ) | 881 | 2006/7/23 |
45 | 岐阜県 | ひるがの(ヒルガノ) | 868 | 2018/7/7 |
46 | 高知県 | 佐川(サカワ) | 852 | 2014/8/4 |
47 | 高知県 | 大栃(オオドチ) | 851 | 2018/7/7 |
48 | 沖縄県 | 久米島(クメジマ) | 847 | 2001/9/13 |
49 | 山梨県 | 河口湖(カワグチコ) | 846 | 1983/8/17 |
50 | 鹿児島県 | 阿久根(アクネ) | 837 | 2006/7/23 |
こう見ると、3日間の総雨量が400mm台、600mm台を大幅に超える地点が普通にありますし、神奈川、栃木など関東地方も含まれています。
上記TOP50にはやはり九州、沖縄、四国あたりの地点が多いですが、昨今の台風の進路はこれまでの常識とは異なってきているようですので、毎年十分な警戒が必要でしょう。
2019年台風19号 72時間降水量TOP20
順位 | 都道府県 | 市町村 | 72時間降水量(mm) | 年月日 |
1 | 神奈川県 | 足柄下郡箱根町 | 1001.5 | 2019/10/13 |
2 | 静岡県 | 伊豆市 | 760 | 2019/10/13 |
3 | 埼玉県 | 秩父市 | 687 | 2019/10/13 |
4 | 東京都 | 西多摩郡檜原村 | 649 | 2019/10/13 |
5 | 静岡県 | 静岡市葵区 | 631 | 2019/10/13 |
6 | 神奈川県 | 相模原市緑区 | 631 | 2019/10/13 |
7 | 東京都 | 西多摩郡奥多摩町 | 610 | 2019/10/13 |
8 | 宮城県 | 伊具郡丸森町 | 607 | 2019/10/13 |
9 | 埼玉県 | 比企郡ときがわ町 | 604 | 2019/10/13 |
10 | 埼玉県 | 秩父市 | 593 | 2019/10/13 |
11 | 静岡県 | 伊豆市 | 590 | 2019/10/13 |
12 | 静岡県 | 御殿場市 | 577 | 2019/10/13 |
13 | 山梨県 | 南巨摩郡南部町 | 562 | 2019/10/13 |
14 | 埼玉県 | 秩父市 | 545 | 2019/10/13 |
15 | 神奈川県 | 足柄上郡山北町 | 542 | 2019/10/13 |
16 | 栃木県 | 日光市 | 512 | 2019/10/13 |
17 | 山梨県 | 上野原市 | 504 | 2019/10/13 |
18 | 群馬県 | 甘楽郡下仁田町 | 496 | 2019/10/13 |
19 | 埼玉県 | 大里郡寄居町 | 488 | 2019/10/13 |
20 | 茨城県 | 北茨城市 | 479 | 2019/10/13 |
関東から静岡にかけて400mm台~1000mm台まで、改めてこれほどの降水量があったということを思い知らされます。
やはり江東5区でもこのぐらいの降水量があるかも、と考えておく必要がありそうです。
大規模水害からの避難方法は?
江東5区の総人口は約260万人で、想定する大規模水害が発生すると、そのうち1割ほどの地域で2階まで浸水、または約44万人の自宅が全て水没してしまい、低地で水が抜けにくいため、最悪の場合2週間以上も広範囲に渡り浸水が継続する可能性があります。
そのため、大型の台風が接近する際には時系列で避難を呼びかける予定です。
・72時間後に河川の氾濫の恐れがある場合
→ 避難準備を呼びかける
・48時間後に猛烈な台風が接近する可能性がある場合
→ 自主避難を呼びかける
・24時間後に台風が接近する場合
→ 広域避難勧告
大規模水害に備えるために協議会では、5区外の親戚や知人、勤務先といった避難先の事前確保を呼びかけています。
5区外に避難ができる人で、鉄道を利用する人は、台風接近の約6時間前には鉄道が停止してしまう可能性があるので、早めの決断、移動が必要です。
一方、5区外にあてのない人や高齢者や病気などで移動が困難な方も大勢います。
その場合、自宅のより高い階への避難や近くの高い施設への避難が必要になりますが、その間、電気・ガス・水道などのライフラインが使えない中での長期滞在も想定しておく必要があります。少なくとも食糧などの備蓄は十分に用意しておく必要があるでしょう。
江東5区内の避難所の受入可能人数は「約49万人」とされ、十分な受け入れができないことに加えて、避難所自体も浸水する恐れがあります。 自衛隊などによりボートでの救出活動も想定されているようですが、十分に機能するのか疑問ですし心配です。
企業活動はどうなる?
江東5区の事業所数は約10万件で、従業員数は約110万人です。(東京都統計年鑑 平成28年より)
(江東5区に所在する業種、従業員数ベースでの割合)
業種別、従業員数ベースでみると、さすが東京というべきか、様々な業種が存在しています。エリア的には中小企業が多いと思います。
水が最悪2週間浸水継続するとされますので、鉄道が動かない、ライフラインが途絶したままなどの場合、2週間またはそれ以上の期間、休業になるリスクがあります。
また、江東5区の鉄道が動かないと主に千葉方面から都心へ通勤する人たちにも影響がありそうです。
休業しても差し支えないという仕事(会社)はないと思いますが、とくにライフラインの途絶により医療機関や自治体が機能不全に陥れば市民への影響は大きいでしょう。
大規模災害等に対応するためにまずはBCP(Business Continuity Planning)策定が有効と言われますが、まずはどんな災害に備えるかを想定することになります。 その意味でも、今回、「江東5区大規模水害ハザードマップ」及び「江東5区大規模水害広域避難計画」が発表されたことはひとつの重要な参考になり得るでしょう。
BCPで有効な対策は、 同時に被災しないような代替となる場所を確保しておく、財務上の備えをしておく(いざというとき銀行借入しやすくしておく、保険加入など)などと言われます。
保険の場合は以下3つの観点で検討しましょう。
財物保険 | 自社の財産復旧のための保険 |
利益(休業)保険 | 休業によって失われた利益部分のための保険 |
営業継続費用 | 他の物件を臨時で借りるなどのための費用を補償 |
BCPを策定する場合、自社だけで考えることも可能だと思いますが、東京都などの自治体でもBCP策定支援をしていますし(費用は無料またはかなり安い)、保険会社の関連会社(リスクコンサルティング会社)や、シンクタンク系のコンサルティング会社に依頼する手段もあります。
ときには、大規模水害のような巨大災害が起こったことを想定して、自社の事業を点検してみてはいかがでしょうか。
(注)記載のある各保険については一般的な内容の説明です。