2019年のテロ事件
有名企業や集客施設であればなおさらですが、リスク管理としてテロの危険性についても考えている企業はあると思います。(ここではサイバー攻撃ではなく、物理的な攻撃として)
テロによる破壊が起きれば、人の死傷、施設損壊、事業停止などのリスクがあります。
それらの被害について保険でどこまでカバーできるのか確認してみたいと思います。
▼2019年のテロ事件(wikipediaより)
日付 | 国 | 事件 | 死者 | 負傷者 |
2019年8月3日 | アメリカ合衆国 | エルパソ•ウォルマート銃乱射事件 | 22 | 24 |
2019年4月21日 | スリランカ | スリランカ連続爆破テロ事件 | 259 | 500+ |
2019年3月15日 | ニュージーランド | クライストチャーチモスク銃乱射事件 | 51 | 49 |
2019年2月14日 | インド | プルワマ襲撃事件 | 40 | 35 |
世界では報道されているだけでも、毎年十数件ののテロ事件が起きていて、平均すれば月1以上のペースでどこかで重大テロがあって、1件のテロにより平均すれば数十人の命が奪われているということです。
日本では以下のようなテロ事件が有名ですね。
・1995年 地下鉄サリン事件(13人死亡、6300人負傷)
・1994年 松本サリン事件(8人死亡、660人負傷)
・1977年 日本赤軍・日航機ハイジャック事件
・1974年 三菱重工爆破事件(8人死亡、376人負傷)
・1972年 連合赤軍・あさま山荘事件(3人死亡、27人負傷)
・1970年 よど号ハイジャック事件
また、とりわけ2001年9月11日のニューヨーク世界貿易センタービルのテロでは3000人近い人が亡くなっており、「テロ」という概念が世界に強く浸透した史上最悪の事件でした。
損害保険上のテロの定義と保険適用有無
損害保険上のテロの定義は、一般的に、「政治的、社会的もしくは宗教・思想的な主義・主張を有する団体・個人またはこれと連帯するものが、その主義・主張に関して行う暴力的行為」とされております。
損害保険は「人、モノ、金、賠償」と大別することができ、企業でいえば以下のように整理できます。
カテゴリ | 保険の対象 | 保険商品 |
人 | 役員・従業員 | 傷害保険、労災総合保険、海外旅行保険など |
モノ | 所有財物 | 火災保険、動産総合保険、運送保険など |
金 | 利益 | 利益保険など |
賠償 | 対人・対物事故、または対人・対物事故を伴わない賠償 | 各種賠償責任保険 |
これらの保険で、それぞれテロによる被害が保険でカバーできるのでしょうか?
テロによる役員・従業員の死傷は保険でカバーできるか?
傷害保険では基本的に戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱、武装反乱、これらに類似の事変・暴動によるケガについては免責(保険金支払対象外)としています。
保険商品開発上、そこまでのリスクは含んでいないということですね。
しかし、「戦争危険等免責に関する一部修正特約」というものが自動的に付帯されており、テロ行為によるケガについては保険の支払対象にしていることが多いです。
労災総合保険についても、「戦争危険等免責に関する一部修正特約」が付帯されているので、業務中にテロによるケガをして、政府労災の認定がおりた場合は、労災総合保険の保険金支払対象になります。
海外旅行保険については、保険金を支払わない場合に「テロ行為は除きます」とあります。つまり、海外出張中にテロでケガをした場合でも保険金支払の対象になります。
テロによる所有財物(建物、設備等)の損害および利益減少はテロでカバーできるか?
火災保険については、一般的に1証券あたりの合計保険金額が10億円を超える場合(工場物件の場合は15億円以上の場合もある)で、被保険者が事業者である場合、テロによる被害については免責としているようです。
逆に、1証券あたりの保険金額が10億円以下だったり、個人所有の物件だったりすればテロによる被害でも保険金支払対象になります。
改めてですが損害保険上のテロとは、「政治的、社会的もしくは宗教・思想的な主義・主張を有する団体・個人またはこれと連帯するものが、その主義・主張に関して行う暴力的行為」とされていますので、保険会社としても大規模物件でなかったり、個人所有の物件だったりすればテロのリスクが低いと見ているのかもしれません。
ただし、大規模施設だったり、集客施設こそテロリスクがあるといえます。大規模物件でも、一部の保険会社では特約でテロによる建物等の物的損害をカバーすることも可能です。
動産総合保険では、保険金を支払わない場合に、戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱、武装反乱その他これらに類似の事変または※暴動とあります。
※暴動=群衆または多数の者の集団によって、全国または一部の地区において著しく平穏が害され、治安維持上重大な事態と認められる状態をいいます。
テロの定義と似ているようで異なる部分もあるので、テロと思われる行為による被害については保険金支払対象になる場合とならない場合があるのでケースバイケースでしょうか。
運送保険については、テロによる保管中の貨物の損害は免責で、輸送中は保険の支払対象となることが多いようです。
建設工事保険については、一般的に日本国内であれば保険金額が15億円以上の場合、テロによる被害は免責となることが多いです。一定以上の物件についてはリスクが高いので免責としているのですね。海外での建設中の建物等は規模に関わらずテロによる被害はすべて免責です。
保険金額15億円未満 | 保険金額15億円以上 | |
国内の建設工事 | 〇 | × |
海外の建設工事 | × | × |
テロによる事故で賠償責任保険は関係あるか?
賠償責任保険は、被保険者が法律上の賠償責任を負う場合に発動する保険です。
テロによる事故で、たとえば自社施設内に来ていた他人(来場者)がケガをした場合、被保険者(自社)に過失があるとは考えにくいので賠償責任保険が支払われることはないでしょう。
一方、来場者が多い施設で、施設に入場する方を包括して傷害保険を付保する「施設入場者傷害保険」というものもあります。
「施設入場者傷害保険」でしたら被保険者の過失有無に関係なく、傷害保険金を支払うことができるので、たとえばお見舞金として何かしら払えるようにしておきたい、等のニーズがあれば検討しても良いかもしれません。
まとめ
物理的なテロ攻撃に対しては、一定程度まで保険でカバーできますが、保険金額10億円以上など大規模物件は支払対象外だったりします。
保険種類など | テロカバー |
傷害保険 | 〇 |
労災総合保険 | 〇 |
海外旅行保険 | 〇 |
火災保険 保険金額10億円未満 | 〇 |
火災保険 被保険者=個人 | 〇 |
火災保険 保険金額10億円以上(工場物件は15億円以上の場合もある) | × (特約で〇にすることも可) |
動産総合保険 | △ |
運送保険 | 輸送中は〇 |
建設工事保険 国内 保険金額15億円未満 | 〇 |
建設工事保険 国内 保険金額15億円以上 | × |
建設工事保険 海外 | × |
自社にとってテロリスクがわずかでもありそうだという場合は、加入している保険を今一度確認してみてはいかがでしょうか?
(注)記載のある各保険については一般的な内容の説明です。